人間以外の霊長類の母親は、赤ちゃんを失った悲しみを何カ月も赤ちゃんを抱き続けることで表現している可能性があることが、新しい研究によって明らかになりました。

霊長類やその他の動物が死を意識し、悲しみを経験するかどうかについては、これまで研究者の間で意見が分かれていました。しかし、今回の新たな発見は、霊長類が死を意識することが可能であることを示唆しています。
「”比較タナトロジー(死生学)”という分野は、こうした疑問を具体的に解決しようとするもので、比較的新しい学問です。しかし、科学者たちは霊長類や他の動物の死に対する意識について、以前から推測していました」と、研究の共著者であるロンドン大学人類学科の進化人類学講師、アレシア・カーター氏は語っています。

「動物の悲しみについて示唆する研究もあり、行動科学者がキャッチアップしようとしている神経科学においても、新たな進歩があります」
タナトロジーは、死とそれに対処するために使われる心理的メカニズムに関する科学的研究分野です。
研究者たちは、50種の霊長類において、乳児の死に対する母親の反応について409例を調査しました。また、霊長類の行動に関する126の異なる研究からデータを収集し、乳児の死体を運ぶ行動を分析しました。
その結果は、学術誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。
カーター氏は、数年前に初めてこの行動を目にし、印象に残ったと話しています。
「10年以上前、初めてヒヒが死んだ乳児を運ぶのを目撃したときはとてもショックでした。しかし、これはよくある行動だと聞かされていたので、そのときはそれ以上追求しませんでした」
彼女の研究は、次第に動物の認知に焦点を当てたものに移っていきました。
「2017年、ヒヒの乳児の死体に母親ではない個体が反応するのを見たことがきっかけで、さらに文献を読んで母親の行動の動機についてさらに興味を持つようになりました」

種と年齢による違い
研究者たちは、調査した種の80%が死体運搬行動を行うことを発見しました。この行動は広く分布していましたが、類人猿と旧世界ザルで最も一般的でした。これらの種は、他のどの種よりも長く死後の赤ん坊を抱いていました。
キツネザルのように、大昔に分岐した霊長類の中には、死後に赤ん坊を抱かない種もありましたが、その代わり、遺体を見舞ったり、赤ん坊に呼びかけたりするなど、別の方法で悲しみを表現していました。
また、他の要因も死後に赤ちゃんを抱く可能性に影響を与えることがわかりました。
「母親が赤ちゃんを抱っこするかどうかは、赤ちゃんの死に方や母親の年齢によって異なります。他の集団の一員に殺されたとか、事故で死んだとか、外傷性の原因で死んだ乳児の母親は乳児の遺体を運ぶ可能性が低くなります。また、母親が高齢であることでも遺体を運ぶ可能性が低くなります」
母親が赤ん坊の遺体を運ぶ時間の長さは、彼らの絆の強さに依存し、それは通常、赤ん坊が死んだときの年齢によって決定されていました。母親は、赤ちゃんが非常に若い年齢で死亡した場合、より長く抱いていましたが、赤ちゃんが離乳年齢の半分くらいになると、著しく減少しました。

死と悲しみの処理
著者らは、この結果から、霊長類は人間と同様の方法で死について学び、処理する必要があるのではないかと述べています。
「死が長期にわたる『機能停止』をもたらすことを理解するには、経験が必要かもしれません。これは、人間が持つ死の概念の一つです。霊長類が、死は普遍的なものであり、自分も含めてすべての動物が死ぬということを理解できるかどうかは、わかりませんし、おそらく今後もわからないでしょう」
カーター氏は、死産した人間の母親が、赤ん坊を抱いて絆を表現できれば、深刻な抑うつ状態に陥る可能性は低くなると指摘しています。
「一部の霊長類の母親も、喪失感に対処するために同じような時間を必要とするかもしれません。このことは、霊長類、より一般的には哺乳類にとって、母親の絆がいかに強く、重要であるかを示しています」
研究者達は、霊長類の母親が、なぜ乳児の死体を運ぶのかを理解しようと努力しています。
「現時点で我々が持っている証拠では、その大部分は哺乳類の強い母子結合と、霊長類の乳児が必要とする長い依存期間にあるのではないかと思っています。まだ推測の域を出ませんが、抱っこの行動は人間の悲しみと比較することができそうです。しかし、確かな事実を知るためにはもっとデータが必要です。霊長類の母親の中には、乳児に対する強い愛着を断ち切るためにある程度の時間が必要なものもいると思います」
この研究は、多くの分野で重要な影響を与える可能性があると研究者達は言います。
「これらの発見は、動物の認知、悲しみや死の意識の起源、ひいては社会における動物の倫理的地位に関する幅広い議論に影響を与えるものです。もし、霊長類が人間と同じように、密接な絆で結ばれた個体の喪失を悲しむとわかったら、我々は霊長類を違った形で扱うべきでしょうか?具体的には、霊長類を動物園で飼育する場合、母親が悲しみを処理するために、乳児の死体をすぐに取りあげるべきではないことが今回の結果から示唆されます」
reference: Why Some Primate Moms Carry Their Babies After They Die (treehugger.com)

人間に悲しみを癒す時間が必要ならば、他の動物にそれが不要ということはないはずじゃのぉ
コメント