各地の魚市場では多数の水産物が取引されており、どんな魚が取引されていたかを人の目によって監視することは非常に困難です。
新しい研究では、魚市場の排水からDNAを検出することで、取引された多数の生物を特定することが可能になるそうです。
市場で販売される希少・絶滅危惧魚類を識別するための新しい環境DNAモニタリング手法
香港大学の研究者達は、水産物市場における希少種や絶滅危惧種の取引を監視するための新たな手法を提案しています。香港の魚市場の排水に含まれる環境DNA(eDNA)から、市場を通過した100種以上の魚を特定するのに十分なDNAを抽出し、種を同定(生物分類上の種を特定すること)することに成功しました。
この調査では、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定されているアカマダラハタ(Epinephelus fuscoguttatus)をはじめ、数種の絶滅危惧や脆弱に指定されている種が検出されました。
他に検出されたのは、ニホンウナギ(Anguilla japonica)、アメリカウナギ(Anguilla rostrata)、ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)のウナギ3種と、イトヨリダイ(Nemipterus virgatus)、ミナミクロダイ(Acanthopagus sivicolus)の魚2種です。


メタバーコーディングにより、一度に多くの種を同定可能
種の同定は、生物のゲノムの特定領域を解読して一致を確認するバーコーディングという方法が一般的です。生物種はそれぞれ固有の「バーコード」を持っており、従来の形態学※に基づく方法よりも信頼性の高い同定が可能です。
形態学は生物学の一分野であり、生物の構造と形態に関する学問です。形態学に基づく生物の同定は、生物の外見的、機能的な特徴によって行われます。
この技術を応用したメタバーコーディングと呼ばれる手法があり、こちらは一度に多くの種を同定することが可能になります。動植物種が環境中に排出する少量の環境DNAでもメタバーコーディングには十分で、例えば、海水をバケツですくって検査することで、その付近に生息している種を同定することができます。
環境DNAを取得する二つの手法

メタバーコーディングを用いた新しい監視手法は、専門家が何時間もかけ確認する必要なしに、市場で取引されている魚種を効率よく識別することを目的としています。また、香港の市場では絶滅危惧種が販売されていることが多いため、多くの魚屋は長時間の検査を許可したがらないという事情もあります。
環境DNAの取得には、“ろ過”と”沈殿”という一般的な二つの手法があります。ろ過法は、市場の排水溝から1リットルの水を採取し、目の細かいフィルターに通すことで、魚種の同定に必要なDNAを保持する組織や血液などを抽出します。沈殿法はさらに少ない45mlの排水から、水中に含まれる細胞片を化学的に沈殿させることで環境DNAを抽出します。
これら二つの手法を用い、5日間、3つの市場から排水を採取し、環境DNAを抽出してメタバーコーディングによる魚種の同定を行いました。また、魚種分類の専門家による目視調査も行い、種の検出結果を比較します。
高い信頼性と容易な実施
結果は、環境DNAを用いたどちらの方法も、専門家の形態学的な判別よりも信頼性が高いことがわかりました。特に魚がさばかれて販売されていたり、類似した種の場合にはその傾向が顕著になります。
また、環境DNAの抽出方法による結果の違いはほとんどなかったため、採取した排水の状況に応じて手法を選ぶことが可能であることもわかりました。
しかし、環境DNAを用いた手法でも数の少ない魚や、市場に置かれた時間が短い魚などは検出されないことがありました。これは、時間や場所を変えて複数回検査することや、違法取引に絞って検出することなどによって、より正確で効率的な検査手法になるとしています。
また、今回提案された手法は非常にシンプルで、数時間の基礎訓練で誰でも簡単に実行することができるようになります。目視による調査は、複数の専門家が何時間もかけて行う必要があり、これが香港での定期的な調査実施を阻む要因となっていました。
論文の共著者であるジョン・L・リチャード氏は、「私たちの手法を地元当局が採用し、香港の野生動物の違法取引の監視と撲滅に役立つことを願っています」と述べています。
この論文は、『Methods in Ecology and Evolution』に掲載されました。
reference: A novel environmental DNA monitoring method for identifying rare and endangered fish species sold in markets (phys.org)、Development of an eDNA‐based survey method for urban fish markets – Richards – – Methods in Ecology and Evolution – Wiley Online Library

魚は見た目だけで魚種を判断するのが難しいから、有効な手段になりそうじゃな
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