キノコは植物ではなく、菌類だということをご存知だったでしょうか?さらに、キノコの本体と呼べるものは、地中に根のように張り巡らされた菌糸体と呼ばれる細い糸の集まりなのです。
私たちが普段キノコと呼んでいるものは、地中の菌糸体が胞子を作るために地上に出した花のようなもので、子実体と呼ばれます。
地中の菌糸体には不思議な能力があり、地中に張り巡らされたネットワークを通じて遠く離れた菌糸体同士でコミュニケーションをとっているなんて話もあります。
さて、今回ご紹介するのはこの菌糸体を使った未来の素材のお話です。今後数年の間に、皆さんの手元にもこの素材で作られた製品が届くようになるかもしれません。
キノコから作られたレザー

米国カリフォルニア州に本拠を置くスタートアップ企業のマイコワークス(MycoWorks)社は、菌類を原料とする環境に優しい、全く新しいレザーを開発しました。このレザーは、キノコから採取した菌糸体を動物性レザーの外観と感触に似せて作られた素材なのです。
「天然素材の品質、耐久性、美観に匹敵する、あるいはそれを超える植物性製品を企業が製造するのは初めてのことです。まさに素晴らしい成果と言えます」と、エルメスの元CEOでマイコワークス社の取締役を務めるパトリック・トーマス氏は声明で述べています。

マイコワークス社はキノコをベースにした工学的な菌糸体を使い、特許を取得した硬い素材を作り出しました。菌糸体は三次元的に成長して密に絡み合い、従来のレザーのような強度、耐久性、性能を備えた素材、ファイン・マイセリウム(Fine Mycelium)を生み出します。
ファイン・マイセリウムはトレイ上で短時間で栽培することができる上、このトレイ自体を必要な形に作り変えることが可能で、素材の無駄を省くことができます。収穫したファイン・マイセリウムになめし加工を施すことで、動物性レザー特有のシボのような質感に仕上げることが可能です。

エルメスに採用されている
この新しいレザー素材は、すでにファッション業界にデビューしています。
2021年3月、高級ファッションブランドのエルメスは、マイコワーク社のファイン・マイセリウム素材を採用したヴィクトリアバッグをデビューさせました。こうした環境に優しい新しい素材は、近年のエコブームに乗り、他のファッションブランドでも採用されるケースが増えています。

こうした動きは、気候変動下における畜産業に対する批判が高まる中で生み出されたものです。ガーディアン紙によると、牛革の製造には飼育される牛に関連する森林破壊とメタンガスの排出によって、石油由来のフェイクレザーを含む他のどのタイプの布よりも環境に大きな打撃を与えているそうです。エコ・ウォッチによると、家畜だけで地球上の温室効果ガス排出量の約15パーセントを占めています。
増える植物由来レザー製品
植物由来のレザーは、すでに他にも登場しています。素材メーカーのアナナス・アナム社は、パイナップルの葉の繊維から「ピニャテックス」という天然繊維を作っており、アドリアーノ・ディ・マルティ社は、ファッション業界や家具業界で使えるサボテン由来のソフトレザー風素材「デザートテックス」を発明しています。

しかし、キノコ由来のレザーであるファイン・マイセリウムは、現状では高級品としてしか利用できない、と批判する専門家もいます。この素材が持続可能な選択肢として市場に大きなインパクトを与えるためには、より低価格帯で入手できるようにする必要がありそうです。
菌類の利用をテーマにした『Entangled Lives』という本の著者で、生物学者のマーリン・シェルドレイク氏は次のように述べています。
「私たちは消費者として何かを買い、使い、捨てるという直線的な思考をするように教育されてきました。菌類はファッションの考え方に影響を与えることができるはずです。無限に新しいものを作るという文化に代わり、自然やリサイクルという観点から何を学べるかということでもあります」
reference: This Mushroom-Based Leather Could Be the Next Sustainable Fashion Material | Smart News| Smithsonian Magazine、子実体 – Wikipedia、不思議がいっぱい!きのこの生態と豆知識:農林水産省 (maff.go.jp)

どんな素材なのか、一度触ってみたいのぉ
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