スローロリスは東南アジアの森林に生息する夜行性のサルで、くりくりとした大きな目が特徴的です。可愛らしい見た目でペットとしても人気がありますが、とても珍しい毒を持つ哺乳類でもあります。
新たな研究によって、スローロリスがその毒をどのように使用しているかが分かってきたそうです。
何のために毒を使うのか?

これまで研究者たちは、スローロリスがなぜ毒を持っているのか、どのように毒を使うのか、について正確な答えを突き止めることができていませんでした。しかし、新しい研究により、スローロリスはその毒を他の種から身を守るためではなく、同種間の争いのために使うことが示唆されたそうです。
この論文の筆者で、オックスフォード・ブルックス大学のアンナ・ネカリス氏は、「この非常に稀で奇妙な行動は、私たちに最も近い霊長類で起こっています。モンティ・パイソンの殺人ウサギが実在の動物であったとしたら、それはスローロリスでしょうが、彼らは互いに攻撃しあうでしょう」と述べています。
スローロリスは脇の下に毒のある分泌物がにじみ出る腺があり、それを舐めて唾液とまぜ混ぜ合わせることで毒を作ります。この毒は犬歯に付着し、相手の骨を貫通するほどの強い咬傷を与えると同時に毒を注入します。毒による攻撃を受けたスローロリスは、傷口周辺の肉が腐り、中には顔の半分が溶けたような状態になったものもいます。

頭に傷を受けた若いスローロリス。
7,000時間に及ぶ調査

霊長類の中で唯一毒を持つスローロリスは、動物界でも非常に珍しい存在であり、何十年もの間、科学者たちはなぜ毒を持つよう進化したのかを議論してきました。その中で、毒は捕食者から身を守るため、あるいは寄生虫を追い払うために使われるのではと推測していました。
ネカリス氏の研究チームは、野生でスローロリスがどのように毒を使うのかを明らかにするため、インドネシアのジャワ島で絶滅寸前のジャワスローロリスを8年間研究しました。82頭のスローロリスに無線装置をつけて動きを追跡し、数カ月ごとに個体を捕獲して健康状態を観察するなど、合計で7,000時間をかけてその行動や健康状態を調査してきました。
その結果、全体の20%のスローロリスに、他のスローロリスに噛まれた新しい傷があることがわかりました。また、メスの約1/3、オスの57%に過去に咬まれた跡があり、若いスローロリスは年配の個体よりも咬まれた跡が多く見られました。
研究チームは、スローロリスは縄張り意識が強く、同種間の争いのために毒を武器として使用していると結論づけました。スローロリスのオスは仲間を守り、メスは子供と食物を守ることが知られています。
同種同士の争いに毒を使う

哺乳類の中で同種の個体に対して毒を使うことが知られているのは、わずか5種しか存在しません。ネカリス氏によると、スローロリスのようにオスとメスの両方が毒を持ち、しかもそれを使用するのは極めて珍しいと話しています。
ロンドン自然史博物館の毒の専門家であるロナルド・ジェナー氏は、次のように話しています。
「どのように同種同士が毒を使って縄張り争いをしたり、資源を奪い合ったりしているかについて、詳細に分析した研究はほとんどありません。この研究はこのテーマに対して行われた最も広範な野外研究だと思います」
reference: The Cute-but-Deadly Slow Loris Reserves Its Flesh-Rotting Venom for Its Peers | Smart News| Smithsonian Magazine、Armed and dangerous, ‘murder lorises’ use their venom against each other (mongabay.com)、Slow lorises use venom as a weapon in intraspecific competition: Current Biology (cell.com)

可愛い顔をして、結構物騒な面があるんじゃな…
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