ヨーロッパミドリガニは、北米の海洋生態系を200年以上にわたって苦しめてきた外来種のカニです。アメリカ・ニューハンプシャー州の蒸留所は、このカニを利用したウイスキーを製造し、この問題の解決に取り組んでいます。
ヨーロッパミドリガニとは?

ヨーロッパミドリガニは、甲羅の幅が9cmほどの小さなカニですが、国際自然保護連合が定める「世界の侵略的外来種ワースト100」に名を連ねるほどやっかいな外来種です。
もともとは、南はアフリカ北部、北はノルウェーまでのヨーロッパ沿岸に生息していましたが、ヨーロッパから大量の船が世界各地へ航海するようになると、船のバラスト水などから世界中に広まっていきました。

青い地域は自然生息の範囲、赤いエリアはすでにこの種が侵入した範囲、黒い点は侵入に至らなかった単一の目撃を表し、緑のエリアは種の潜在的な範囲です。
このカニは冬季に産卵、孵化するという他のカニと競合しない生態によって、各地で個体数を増やしています。
カニを使ったウイスキー

Photo: Jennifer Bakos
アメリカには1800年代に侵入し、生息数を増やしています。このカニが大量の二枚貝を食べることで沿岸漁業に深刻なダメージを与えており、河口における魚類の生息地を破壊しています。
そこで、ニューハンプシャー州タムワースにあるトムワース・ディスティリング(Tamworth Distilling)社は、クラブ・トラッパー(Crab Trapper)という新しいウイスキーを開発しました。このウイスキーには、ニューハンプシャー州の沖合で捕獲されたヨーロッパミドリガニが使用されています。
このプロジェクトの発案者である製品開発担当のウィル・ロビンソン氏によると、このカニはレストランで注文する他のカニと同じように洗浄され、調理されているそうです。
ロビンソン氏は、「カニウイスキーと聞いて、3/4の人が”絶対にいやだ”と思うでしょう。しかし、試飲してもらえば、ほとんどの人は態度を変えますよ」と話しています。
カニウイスキーの製造工程
このカニウイスキーを作るには、まずはカニを真空蒸留器という温度調節可能なガラス製の機械に入れ、エキスを抽出します。
「まるで実験器具のよう機械です。茹でると壊れてしまう味と香りを、この機械なら残すことができるんです」
このエキスに、マスタードシード、コリアンダー、シナモンなどのスパイスを調合し、バーボンと組み合わせて完成です。
ロビンソン氏は、この酒を”考えて飲む酒”と呼んでいます。「嗅覚を通して、自分自身の知覚を探求するためのものです」
このウイスキーは、トムワース・ディスティリング社のHPで65ドル(現在のレートで約9,000円)で販売されています。

Photo: Jennifer Bakos
駆除の取り組み
ウイスキー1本あたり約450グラムのヨーロッパミドリガニが使われていますが、この1つの蒸留所だけではこのカニの生息数を大きく減らすことはできないでしょう。ニューハンプシャー大学の海洋生物学者で漁業専門家のガブリエラ・ブラット氏は、その数が制御不能になっていると言います。
「このカニは少なくとも海洋においては、北米で最も成功した外来種の一つでしょう。カニ1匹で1日に約40個の二枚貝を食べることができます。それが何億倍にもなると、私たちはもう二枚貝を食べられなくなってしまうのです」
気候変動が事態を悪化させています。海水温の上昇は、この外来種のカニにとってより快適な環境を提供することになります。
それでもブラット氏は、「クラブ・トリッパー」という創造的なプロジェクトは、皆の意識を高めることでこの問題に対処するのに役立つと言います。彼女自身の研究は、ヨーロッパミドリガニの脱皮の場所と時期を追跡することに重点を置いています。脱皮直後のカニを捕獲できれば、他のソフトシェルクラブのように調理して、より多くの人に食べてもらえるという考えです。

Tim Briggs/New Hampshire Sea Grant
「今のところ、カニ漁師にとってヨーロッパミドリガニを大規模に捕獲する商業的な価値はありません。しかし、釣り餌、ウイスキー、魚醤など、このカニを使った新しい製品がそれを変えるかもしれないと期待しています」
ウイスキーは人々に情報を提供するための”きっかけ”に過ぎない、とブラッド氏は言います。
「より多くの人がこの問題を知ってくれれば、私たちがまだ見たことのない、素晴らしい、革新的なアイデアを持つ人がどんどん出てくるかもしれません」
reference: How a New Hampshire distillery is fighting invasive green crabs — with whiskey : NPR、Carcinus maenas – Wikipedia、Tamworth Distilling

こうした外来種に対する取り組みは当然日本でも行われておるし、こういったアイデアが世界に広まると、一つの良いヒントになりそうじゃな
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