アメコミの代表的なヒーローであるスパイダーマンは、手から出した糸を様々な場面で活用します。時にぶら下がってビルの間を移動したり、敵を捕縛したり、張り巡らせた糸で暴走電車を止めたこともあります。とんでもない能力ですが、あながち漫画の中の誇張された話だとは言えないかもしれません。
あるクモは、物理学を駆使した巧みな戦略により、自分の50倍もの重さの獲物を釣り上げることができるそうです。
強靭なクモの糸
クモの糸はしなやかで弾力があり、そして非常に頑丈です。実際のクモの糸は非常に細いため、その強さに気が付きにくいですが、同じ重さであれば鋼鉄の数倍も強度があります。しかし、これだけでは大きな獲物を持ち上げることはできません。
ヒメグモ科のクモは、その強靭な糸で作った巣と滑車のような仕組みを使い、自分よりはるかに大きな獲物を捕らえることができるのです。この事実は、『Journal of the Royal Society Interface』誌に掲載された論文によって明らかになりました。
イタリア・トレント大学の研究者で論文の著者であるガブリエレ・グレコ氏は、今回の論文について、「これは、クモが筋力の限界を克服するため、糸を道具として利用する新たな例です」と述べています。
実験
研究者たちは、ヒメグモ科カガリグモ属のクモの中から2種のクモを選んで実験を行いました。


左:マダラヒメグモ(学名:Steatoda triangulosa)、右:和名不明(学名:Steatoda paykulliana)
それぞれのクモを黒い紙で覆ったプラスチックの箱に入れ、室温で保管します。黒い紙を使うのは、クモの糸がよく見えるようにするためです。獲物には重さと大きさを考慮し、中南米に生息するアルゼンチンモリゴキブリ(学名:Blaptica dubia)を選びました。そして、この箱をカメラで撮影し、その狩りの様子を観察します。
クモの巧みな戦略

【捕獲の手順】(c)獲物を捕獲糸で感知すると、(d)クモはあらかじめ張っておいた糸を獲物に取り付け始める。(e)獲物の重量を糸の張力が上回ると獲物が地面から離れ、(f)持ち上げられる。
実験の結果、クモがどのようにして自分よりもはるかに重い獲物を釣り上げるのかが明らかになりました。
獲物が糸に掛かったことを検知すると、クモは獲物を釣り上げるため、あらかじめ伸ばしておいた糸を付けていきます。これは伸縮性のあるゴムを伸ばすようなもので、クモは大きな獲物を捕らえるために事前に準備をしたのです。
しかし、重たい獲物はすぐに吊り上げることはできず、クモは何度も上下に移動しながら糸を付けます。すると滑車の要領で、クモの巣全体の弾性を利用しながら獲物は少しずつ持ち上げられていくのです。この際、クモは毒を使って獲物の動きを止め、持ち上げる作業を容易にしています。
こうして上部にあるクモの巣の近くまで持ち上げることができれば捕獲は完了です。

筋力の限界を超える
実験室のような環境で、クモがこれほど大きな獲物を捕らえる様子を確認したのは今回が初めてです。
これまで、クモは糸を単純に利用し、小さな獲物を釣り上げていると考えられてきました。しかし、この仕組みではネズミやヘビのような大きな獲物には通用しません。クモには自分よりはるかに大きな獲物を持ち上げる筋力がないのです。
クモはこの問題を解決するため、糸で作った滑車システムを利用します。これにより、糸の弾力性を最大限に活用し、巨大な獲物を捕らえることができるのです。
この研究は、クモの生態を知る上で有益なものになりました。筋力の限界を超える力を生むため、糸を巧みに利用するという行動は斬新です。しかし、このようなクモの能力のメカニズムに焦点を当てた研究は限られています。論文では、この優れたハンターが生態系で果たす役割をより深く理解するため、さらなる研究が必要であると述べてられています。
reference: Video captures the cunning way spiders catch massive prey (inverse.com)

人間が考えても、こんな仕組みはなかなか思いつかんぞぃ
コメント
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