生態系には食物連鎖のピラミッドが存在します。上位の捕食者が下位の被食者を食べることで全体の均衡が保たれていると考えられていますが、実はそれだけではないかもしれません。
生存本能に従い、被食者は常に捕食者の存在を警戒していますが、実はこの行動には代償があるのです。新しい研究によると、この代償が被食者の個体数の減少という結果をもたらすことが明らかになりました。
恐怖心が生態系に与える影響

これまで、捕食者が被食者の個体数に与える影響を調査する場合、捕食者がどれだけの数の獲物を捕らえたかを調べることが一般的でした。しかし、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文は、捕食者に対する恐怖心自体が個体数を減少させる要因になりえることを示しています。このような恐怖心がもたらすマイナスの影響は、これまで測定されたことがなかったそうです。
カナダにあるウェスタン・オンタリオ大学の生物学部教授で、論文の著者であるリアナ・ザネット氏の研究チームは、野生に生息するウタスズメの個体数を長期に渡って調査しました。
その結果、捕食動物に襲われる恐怖が、5年以内にウタスズメの生息数を半減させる可能性があることが明らかになりました。どうやら捕食を回避するための行動が、親鳥がヒナを養う能力を損なわせているようです。
この結果について、ザネット氏は次のように説明しています。
「この結果は、自然保護や野生生物の管理、公共政策にとって極めて重要な意味を持ちます。(絶滅の危機に瀕する)在来の捕食動物を保護し、野生復帰させることで起こる生態系への影響は、すべて再評価されなければならないのです」

恐怖心は親の育児能力に影響を及ぼす
ウタスズメに対して行った調査の内容を詳しく見てみましょう。
ザネット氏のチームは、ウタスズメの毎年3回の繁殖期に、捕食者と非捕食者の鳴き声を録音したものを流しました。ウタスズメの主な捕食者は、猫やタカ、フクロウなどの猛禽類です。この間のウタスズメの出生数とヒナの生存率を調べることで、捕食者への恐怖心が世代を超えた個体数にどのように影響するかを確かめました。

その結果、捕食者の鳴き声が聞こえると、ウタスズメは捕食者を警戒することに時間を費やし、自分や子どものために十分な餌を見つけることができなくなりました。また、非捕食者の鳴き声を聞かせたデータと比較すると、生まれてくるヒナの数が減り、成鳥まで生き抜くヒナの数も減っていることがわかりました。さらに、成鳥になったヒナの中には脳の発達が損なわれている個体がみられ、成鳥になってからも生き延びる可能性が低下しているケースも確認されました。
この結果は、捕食者への恐怖が世代を超えて影響を与え、数世代にわたって個体数の減少をまねく可能性を示唆するものです。
恐怖心の影響はほとんどの生態系に及ぶ?

先述のとおり、この研究は捕食者が被食者集団に与える影響を評価する際に、捕食者によって殺された被食者の数だけに注目してはならないことを決定的に示しています。捕食者への恐怖心の影響を考慮しないと、捕食者が与える影響を大幅に過小評価することになりかねません。例えば、捕食者がいなくなった生態系に安易に捕食者を再導入すると、悲惨な結果をもたらす可能性があるとザネット氏は主張します。
「なぜなら、ほとんどの鳥類とすべての哺乳類にとって、子育てが基本的な特性であり、恐怖によって子育てが疎かになることはよくあることだからです。恐怖心そのものが被食者集団に与える大きな影響が明らかになりましたが、このことはほとんどの生態系に当てはまると予想されます」
reference: Fear of predators can damage prey as much as predation itself • Earth.com、Song sparrow – Wikipedia

あまり考えることがなかった視点じゃな
生態系のバランスは、我々が思っているよりも複雑なんじゃな
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