サメは恐竜よりも先に地球上に登場し、現在に至るまで様々な環境の変化に対応しながら世界中の海で繁栄を続ける最も成功した魚類の一つです。その中でも近年注目を集めているのが、陸上を歩行できるサメです。
いくつかのサメの種でそのような行動が確認されていますが、エポーレットシャークと呼ばれるサメは特に素晴らしい陸上への適応をみせているようです。
陸上を歩くサメ

エポーレットシャーク(和名:マモンツキテンジクザメ、学名:Hemiscyllium ocellatum)は、テンジクザメ科のサメの一種です。体長は70~90cmほどと小型で、人間に対して危害を加えることはありません。
フロリダ・アトランティック大学とジェームズクック大学の生物学者らのチームは、『integrative and comparative biology』誌にこのサメの素晴らしい運動特性を検証した論文を投稿しました。
エポーレットシャークは、オーストラリアとニューギニアの浅い岩礁やサンゴ礁に生息し、丸くて幅広いパドル状の胸ビレと腹ビレを使って、陸上を最大30メートルほど移動することができます。
陸上歩行は環境への対応か?

フロリダ・アトランティック大学の生物科学科の教授で、論文の著者でもあるマリアンヌ・ポーター氏は、このサメが陸上を歩くことで、より好ましい環境に到達することができると言います。
「美しい熱帯のビーチが過酷だとは思われないかもしれませんが、実際には潮溜まりやサンゴ礁の環境はかなり過酷であり、潮が満ちたり引いたりすることで様々な変化が起こります。潮が引けば高温にさらされることもあります。しかし、この小さなサメは、潮溜まりから潮溜まりへと移動することができるため、餌が豊富でより酸素濃度の高い潮溜まりを利用することができるのです」
こうした適応は、サンショウウオなどの両生類が陸上に適応した過程に類似しており、いわゆる収斂進化※の例と考えられてます。
複数の異なるグループの生物が、同様の生態的地位についたときに、系統に関わらず類似した形質を独立に獲得する現象。
また、魚類が陸上を移動する際の大きな問題となるのが、エラ呼吸による酸素の供給が断たれてしまうことですが、このサメは低酸素状態でも最大2時間耐えられるといいます。これは、脳の一部の代謝を抑制することで実現されているようです。
今後の気候変動で生き残る種となるか?
この驚くべき能力により、エポーレットシャークは気候変動に伴う厳しい環境下でも生き残ることができるとかもしれません。論文には、”現在までの研究結果は、この種が21世紀に予測される厳しい条件の幾つかに耐える適応を有していることを示唆しています”と記載されています。
ポーター氏は、「オーストラリアの共同研究者は、このサメが気候変動に強いことを発見しています。これらのサメは、変化する環境が脊椎動物全般や他の生物種にどのような影響を与えるかを検討する上で素晴らしいモデルであり、未来の海で何が起こるかを反映させることができます」と述べています。
驚くべきことに、エポーレットシャークは歩行能力を持つ唯一のサメの種ではありません。2013年には、インドネシアの研究者がヒレを使って海底を歩くことで、小魚や甲殻類を採餌する種を発見しています。また、クイーンズランド大学の研究者と国際的なパートナーによる2020年の研究によれば、少なくとも9種のサメがヒレを使って浅瀬を歩いていることが確認されています。
しかし、エポーレットシャークが他と大きく異なるのは、長期間にわたる低酸素状態への耐性と、体長の30倍もの距離を歩くことができる能力です。
ポーター氏は、「サメが(陸上を)移動して、ある場所から別の場所へ歩けることは本当に重要なことです」と言い、このサメが捕食者から逃れ、より豊富な餌と競合相手の少ない場所へ到達するための優れた移動能力を有していると指摘しています。
reference: Epaulette sharks able to walk on land evolving to better survive climate crisis | Fish | The Guardian、Epaulette shark – Wikipedia

太古に起こったとされる海から陸への生息域の拡大が、今現在も行われているというのは感慨深いものがあるのぉ
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