アルプスアイベックスという動物をご存知でしょうか?もしかすると、ダムの壁に張り付いている姿を見たことがあるかもしれません。
この謎の多い動物をめぐる絶滅と保護の歴史は、絶滅に瀕する動物種の回復と再生に向けた有益な例と言えます。
今回はアルプスアイベックスの基礎知識、そして絶滅寸前から奇跡の復活を遂げる歴史をご紹介します。この物語には、私たち自身の行動に対する警告が込められています。そして、迅速かつ大胆な行動により、この種を救うことができたという希望も見出すことができるでしょう。
アルプスアイベックスの基礎知識
アルプスアイベックス(学名:Capra ibex)はヤギの仲間です。一時期この種の亜種とされていたヌビアアイベックス、ワリアアイベックス、シベリアアイベックスなども「アイベックス」の名前が付けられていますが、単にアイベックスと言えばアルプスアイベックスを指します。

彼らはヨーロッパアルプスの山岳地帯にヨーロッパ諸国(イタリア、スイス、オーストリア、フランス、スロベニア)の国境を跨いで生息しています。


アルプスアイベックスの最大の特徴は、短く広い頭部に生える立派な二本のツノです。体毛は茶褐色で、冬の厳しい寒さと夏の暑さに対応するため、年に二度生え変わります。また、彼らは優れた登山家であり、アルプスの雪線地帯※の険しい岩場にも適応します。
雪線(せっせん)は、氷河の形成を促進する気候条件を満たす範囲の下限を結んだ線のことで、要するに山岳氷河ができるほど寒く、標高の高い地域に住んでいるということです。
雌雄差はツノと体格に現れ、オスはメスよりも大きな角と大きな体格を持っています。


繁殖行動
アルプスアイベックスのオスとメスは一年の大半を別々に暮らしますが、6週間程度の繁殖期(例年12月頃)になると繁殖相手を探し、一緒に行動します。
大人のオスは時にツノを使ってメスを奪い合いますが、他の多くの動物同様、威嚇によって勝負が決することも多くあります。また、オスの間には順位付けがあり、立派なツノは優位に働くと考えられています。

妊娠期間は大体170日程度で、約2割は双子です。繁殖期が終わると、大人のオスの群れ、大人のメスとその子供の群れ、若い年齢の群れに再び分かれます。
18ヶ月で性的成熟を迎えますが、その後も体は成長を続けます。メスは通常5〜6歳で完全に大きくなりますが、オスはもう少し時間がかかり、9〜11歳でフルサイズになります。寿命は野生の環境で19歳くらいまで生きると言われています。
絶滅の危機
アイベックスの化石は更新世(約258万年前から約1万1700年前の期間)まで遡ることができます。これは、更新世に存在したカプラ・カンブルゲンシスという動物からアルプスアイベックスとスペインアイベックスが分かれ、進化した時期です。
人間の人口増加や技術進歩に伴い、16世紀には早くもアルプスアイベックスの分布に深刻な影響を及ぼし始めたとされています。乱獲や生息地の減少といった要因により、その個体数は着実に減少していったのです。
その後、18世紀にはドイツとスイスから姿を消し、19世紀にはオーストリアとイタリア北東部でも見られなくなりました。
最終的には、フランス-イタリア国境付近のグラン・パラディゾ山とヴァノワーズというごく限られた地域でしか見られないという悲惨な状態に陥ります。その数は100頭にも満たないものでした。
そこで、イタリアアルプス西部とモーリエンヌ渓谷を公園化し、この種の保存を図ることになりました。当時イタリア王国の初代国王であったヴィットーリオ・エマヌエーレ2世が、この地を「グラン・パラディーゾ王立狩猟保護区」に指定し、1922年には正式な国立公園となりました。
また、1920年代には人工的に繁殖させた個体を再導入する活動も進められ、絶滅寸前だった個体数は現在では3万頭以上になっています。
成功体験に縛られることなく

アルプスアイベックスが個体数の増加に伴って生息域を拡大していることも素晴らしいですが、この動物の保護において最大の成功と言えるのは、やはり絶滅を免れた点です。いまだ希少な動物であることに変わりはありませんが、その生息状況は以前に比べるとずっと良い状態にあります。
国際自然保護連合(IUCN)が定めるレッドリストでは、この種は最悪状態の「絶滅危惧種」ではなく、「低懸念」に指定されています。気候変動による自然環境の危機が叫ばれる中、このようなサクセスストーリーは稀有な例です。
しかし、動物の保護と再生の取り組みは、必ずしも「1回で終わり」というわけにはいきません。個体数の増加は称賛に値しますが、回復した個体群の遺伝的多様性は非常に低くなっています。少数の個体から回復したため、近親交配が進み、病気に対して非常に脆弱になっているのです。これは将来的に問題になる可能性があります。

さらに、アルプスアイベックスの近縁種の保護活動も楽観視できません。スペイン・イベリア半島の固有種であるスペインアイベックスは、すでに2種が絶滅しています。また、大規模なクローン実験が行われているにもかかわらず、現在のところ成功には至っていません。
いかがだったでしょうか?現在、地球温暖化の影響により、様々な種が絶滅の危機に瀕していますが、ヨーロッパアルプスの山の上には保護の成功例がたしかに存在しています。私たち人間は、これからも希望を持って動物の保護を続けなければならないのです。
reference: All About the Mysterious Alpine Ibex • Earth.com、Alpine ibex – Wikipedia、Iberian ibex – Wikipedia

種の保全はとても大切なことじゃ
一度なくしてしまったら、もう元には戻れんのじゃ
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