インディアン・ジャンピング・アントは、女王アリが死ぬと働きアリの中から次の女王アリが生まれる大変ユニークなアリです。この種の女王アリは、昇格することで働きアリよりも5倍も長い寿命を得ることができます。
もともと同じDNAを持っているはずですが、この違いはどのようにして生まれるのでしょうか?
以前、この種のアリが女王アリへ昇格する方法を記事にしています。併せてお読みください。
インシュリンの功罪

『Science』誌に掲載された論文によると、研究者たちは、インディアン・ジャンピング・アント(学名:Harpegnathos saltator)の新しい女王アリが5倍の長寿を得るため、どのようにして老化を遅らせらせているかを突き止めました。この発見は、他の多くの動物の老化プロセスの解明に役立つ可能性があります。秘密の鍵は、インシュリンの複数の作用と、その作用の一部を食い止めるタンパク質にあります。
一般にインシュリンというホルモンは、細胞が血液から糖を取り込み、エネルギーとして利用するのを助ける作用があります。ゲーマゲートと呼ばれる代理の女王アリは、繁殖のためのエネルギーを得るため、大量の食べ物を消費しなければならず、インシュリンの分泌を高める必要があります。
ニューヨーク大学の教授で論文の著者であるクロード・デスプラン氏は、「卵を産むため、絶えず食べるので大量のインシュリンが必要です」と述べています。
しかし、インシュリンの分泌は「Aktシグナル伝達経路」と呼ばれる細胞プロセスを活性化させ、老化や加齢性疾患を加速させると考えられています。つまり、ゲーマゲートが大量のインシュリンを分泌させることで、普通の働きアリよりも早く老化するはずです。
「しかし、このアリの場合は正反対の事が起こります」とデスプラン氏は言います。典型的な働きアリの寿命の中央値が約8カ月であるのに対し、ゲーマゲートは約3年3カ月も生きることができるのです。
そして興味深いことに、ゲーマゲートはすでに女王アリがいる別のコロニーに入れられると働きアリに戻り、寿命も他の働きアリと同じになるのです。
女王アリとゲーマゲートはインシュリンを大量に分泌しているにも関わらず、長寿を保てる理由はなんなのでしょうか?
パラドックス

デスプラン氏はこのパラドックスを解決するため、ニューヨーク大学の生化学と分子薬理学の教授で、長年の共同研究者でもあるダニー・ラインバーグ氏とチームを組みました。
研究チームは、インディアン・ジャンピング・アントの各部位の組織を採取し、「バルクRNAシーケンス解析」と呼ばれる手法を用いて、採取した組織でどのタンパク質が構築されているかの分析を行いました。
その結果、ゲーマゲートの脳内ではインシュリンが多く分泌され、脂肪体(脊椎動物の脂肪と肝臓に相当する器官)では、脂肪とビテロジェニン(卵黄の前駆物質)が多く生産され始めることが確認されました。そして、この脂肪体で生成された資源の一部は卵巣に運ばれて卵の生産に使われ、脂肪の一部は女王アリだけが発散する独特のフェロモンを作るために使われていました。女王アリが死んだ後、働きアリが次の女王を目指して戦いを始めるのは、このフェロモンが巣の中から消失するためと考えられています。
ここまでは予想された結果と言えますが、さらに卵巣では”Imp-L2″というタンパク質が生産されていることも確認されました。そして、このImp-L2には「Aktシグナル伝達経路」をブロックする作用があり、老化を遅らせることが明らかになったのです。また、Imp-L2は脂肪体にも行き渡り、この臓器にも老化防止効果をもたらしていることもわかりました。
研究チームは次のステップとして、Imp-L2が老化に関連する経路のみを遮断し、生殖に関連する経路は遮断しない仕組みを解明する予定であると語っています。また、インスリン遮断タンパク質(Imp-L2)の効果をミバエを含む他の昆虫でも試し、最終的には哺乳類でも研究する予定だといいます。
ラインバーグ氏は今後の研究の展望について、次のように語っています。
「何が起こるのか正確にはわかりません。ハエとアリは全く似ていないのです。そして、Imp-L2のアンチエイジング効果が哺乳類でも発揮されるかを予測するのはさらに困難です」
reference: These ant queens live 500% longer than workers. Now we know why. | Live Science、Harpegnathos saltator – Wikipedia、

このタンパク質の効果が他の動物でも効果が確認されたら、きっとすごいことになるのぉ
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