1897年、イギリスのSF作家が発表した小説の中に、タコに似た火星人が登場しました。以降、ステレオタイプな宇宙人のキャラクターといえば、タコがモチーフにされることが多くなりました。
実際、現実に存在するタコも、3つの心臓と9つの脳、それに青い血液を持っており、宇宙人顔負けなユニークな生物と言えます。また、彼らは優れた知能を持ち合わせており、道具を使用したという報告もあります。
それでは、彼らは人間と同じように痛みを感じ、それを記憶すると言われていますが実際のところはどうでしょうか?彼らに私たちと同じような感情はあるのでしょうか?
人間と心を通わせるタコ

米国ボストンにあるニューイングランド水族館。ここで飼育されているメスのタコのオクタヴィアは、展示用の水槽からタコの巣穴のような暗く静かな場所へと移されました。そこは寿命の終わりの近い生き物たちが集められる場所です。
作家で博物学者のサイ・モンゴメリ氏は、オクタヴィアとは数年来の知り合いでした。彼女はオクタヴィアに魚を食べさせたり、一緒に遊んだりしたことが数え切れないほどあります。それは、彼女が2015年に出版した『The Soul of an Octopus』の研究の一環でした。この本には、この動物の驚くべき知性が綴られています。

彼女はオクタヴィアを最後に見たときのことを語ってくれました。
「オクタヴィアは病気で、年を取り、明らかに瀕死の状態でした。私が水槽を開けると、彼女は私の顔を見るために浮かび上がってきました。私が魚を渡すと、彼女はそれを受け取り、脇に置きました。彼女はわざわざ水槽の底から上がってきて、私に触れようとしたのです。彼女は私に吸盤を伸ばし、私の顔を見ると何分も私を抱いていました」
タコは人間を識別できると言われています。これは、オクタヴィアが10ヶ月間、巣穴で一人で過ごした後の出来事でした。その間、彼女はモンゴメリ氏や他の人に全く会っていません。3年から5年しか生きられない生き物にとって、「10カ月は何十年にもなる」とモンゴメリ氏は言います。
その後すぐにオクタヴィアは息を引き取りました。
生物の感情
彼女との最後の別れは、モンゴメリ氏にタコが感情を持っていることを確信させるものでした。彼女の考えは個人的な経験に基づくものです。しかし、このように考えるのはモンゴメリさんだけではありません。
タコは痛みを感じ、それを積極的に避けようとする。クリスティン・アンドリュース氏とフラン・デ・ワール氏は、『Science』誌に発表した新しい論文の中で、タコなどの頭足類を含む多くの動物が痛みを感じていることを指摘しています。
それは、熱いものを手にしたときに思わず手を離してしてしまうような”反射”的反応だけを差しているのではありません。彼らの論文は、過去20年間の研究をもとに、それをはるかに知性を指摘しています。

侵害受容(痛みなどの刺激)は、必ずしも中枢神経系や意識に到達するわけではありません。つまり、動物は痛みを感じたとき、それを避けようとするかもしれませんが、その痛みに関連した感覚が伴わないことがあるということです。
しかし、タコはたとえその瞬間に痛みがなくても、以前ネガティブな刺激を受けた場所を避けることが分かっています。論文によれば、それはそこで感じた痛みを記憶していて、避けるべき場所として処理しているからだと言います。
“Emotion”と”Feeling”の違い
研究者が動物の内面(考えや感情)を評価する場合、”Emotion”と”Feeling”を区別しています。
※日本語ではどちらも”感情”と訳されますが、ここでは区別のため英語表記にしています。
アンドリュース氏とデ・ワール氏によれば、”Emotion”とは、「測定可能な生理的・神経的状態であり、しばしば行動に反映される」ものとしています。
例えば、体温の上昇、神経伝達物質やホルモンの活性の上昇などで、具体的には、以前科学者が棒で突いた場所を動物が避けること、などが挙げられます。
一方、”Feeling”は”Emotion”よりも深いレベルで起こります。
人間は自分の気持ちを言葉で伝えることがあります。例えば、「嬉しい」や「腹が立つ」など。
しかし、他の動物とはそのようなレベルのコミュニケーションをとることはできません。そのため、人間以外の動物が何を感じているのか、私たちは正確に知ることができないのです。しかし、だからといって彼らが何も感じていないというわけではありません。
アンドリュース氏は、「科学者は、人間に対するのと同じように、動物に対しても”Feeling”の側面を考慮すべきです。ただし、それは動物相手では測ることができません」と語っています。

モンゴメリ氏も同じことを言っています。確かに、タコが水面に上がってきてそっと触れるとき、どんな感情が働いているかはわかりません。しかし、人間を含む自分以外の生き物に対して、そのような感情を正確に理解できることはあるのだろうか、と彼女は問いかけます。
「タコが心の中で何を感じているのか、私にはわかりません。しかし、私の夫が本当は何を感じているのか、夫にとっての幸せが私にとっての幸せと同じように感じられるのかどうかも、同じようにわからないのです」
動物愛護のための重要な一歩
イギリスは、タコやその近縁種を”Feeling”を持つ存在、つまり感情や痛みの記憶を持つ存在として認める方向に一歩を踏み出しました。タコのような頭足類と、カニ、ロブスター、ザリガニなどの甲殻類が、現在英国議会で審議中の新しい動物愛護法に含まれているのです。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジョナサン・バーチ准教授は、この法律について英国政府に助言するチームを率い、300以上の研究を調査しました。

「我々は、これらの動物すべてを動物愛護法の適用範囲に含めるよう勧告しました。これらの動物には感情があることが判明したのです。特にタコに対する証拠は強いものでした」
バーチ氏は、ザリガニやタコのような動物に共感するのが難しいのは、「私たちと見た目が違い、異質な存在に見えるから」だと言っています。
「しかし、だからといって、そこに共感できるものがないわけではなく、彼らに感情がないわけでもないのです。この件に関しては、科学的な証拠によって導かれるしかないのです」
reference: Do octopuses have emotions? | Science | In-depth reporting on science and technology | DW | 24.03.2022、痛みと鎮痛の基礎知識 – Pain Relief ー侵害受容 (umin.ac.jp)

世界的にこのような動きが進んでいくと、日本もこのままというわけにはいかなくなるじゃろうな
コメント
こんにちは。
タコに感情があるなんて初めて知りました。
他国で動物愛護法に含まれていくことが増加すると、大好物のタコが食べられなくなりそうですね。
残念ですが、諦めるしかないですね。
今回も面白い情報をありがとうございました。
こんにちは。
調理といいますか、〆る際に苦痛を与えないようにするなどの対処が必要になるようですね。