野良猫は可愛らしい存在ですが、地域住民にとっては様々な被害に悩まされる社会問題になることがあります。また、猫は優れた捕食者であり、生態系への影響も見過ごせません。
近年、多くの自治体で野良猫に対する不妊去勢手術の助成を行っています。これは”TNR”という活動の一環で、TはTrap(捕獲)、NはNeuter(不妊去勢手術)、RはReturn(戻す)を意味します。俗に地域猫と呼ばれる猫は、TNRの後、餌場やトイレなどを地域で管理されているものです。
海外では、こうしたTNR活動が野良猫の個体数抑制に本当に効果があるのかについて研究が行われています。
放し飼いの猫を管理する最適な方法とは?

世界には6億匹以上の猫がおり、その3分の2以上が野良猫であるという調査結果があります。また、野良猫などの外を自由に歩き回れる猫たちが、毎年13~40億羽の鳥類と63~223億匹の哺乳類を殺しているとも推定されています。
イスラエルの研究者たちは、野良猫の個体数を抑制する最も効果的な方法について調査を行いました。
「イスラエルや多くの国(特に温暖な気候の国)では、自由に動き回る猫(野良猫、地域猫、放し飼いの猫など)が非常に多く生息しています。彼らは愛すべきペットですが、一方で野生動物に脅威を与え、人間に迷惑をかけ、公衆衛生上の脅威となり、さらに彼ら自身も劣悪な環境に苦しんでいます」と、エルサレム・ヘブライ大学コレト獣医学部の主任研究員エヤル・クレメント氏は語っています。
地域社会ではTNRと呼ばれるプログラムによって、野良猫の個体数を抑制することがよくあります。TNRは野良猫を捕獲し、避妊・去勢手術を施した後、縄張りに戻すというものです。手術の際、耳の上の部分を少し切除することがありますが、これは野良猫が去勢・避妊手術を受けているかどうかを見分ける方法として世界的に認められているものです。
「TNRによって野良猫の個体数を制御する活動は、数十年前に始まりました。しかし、広く使われている活動にもかかわらず、科学的手法(十分な期間での未実施地域との比較など)で検証されたことはありませんでした。そのため、私たちはこの方法が猫の個体数を制御するために実際にどの程度有効であるかを明らかにすることにしたのです」
TNRの長所と短所

TNRは賛否両論あるプログラムです。殺処分よりも人道的であると考えられていますが、放された猫が野生動物の個体数を脅かすことに変わりはありません。
また、費用と手間がかかり、地域の猫の少なくとも70%が不妊・去勢手術を受けた場合にのみ有効であるとクレメント氏は指摘します。
「TNRが実施されていない地域の猫は、実施されている地域へと移動することができます。そのため、この方法は隔離された地域全体で行う必要があり、実施はかなり大変です。また、もう一つの落とし穴は子猫の生存率が上昇するなどの補完的なメカニズムの発生です」
十数年にわたる研究
研究者たちは、個体数制御方法の長期的な効果を分析するため、合計12年間に及ぶ猫の追跡調査を行いました。対象はイスラエルの都市リション・レジオンの野良猫です。
3つの異なる方法をそれぞれ4年間ずつテストしました。1つ目は、4年間まったく猫に介入しない方法。2つ目は、市内の50のゾーンのうち、半分のゾーンでTNRを実施し、残りのゾーンは何もしない方法。そして、3つ目は市内のすべての野良猫にTNRを実施しました。
「TNRによって猫の個体数を減らすには理論上でも時間がかかるため、長期間にわたって集団を追跡することは非常に重要でした」とクレメント氏は言います。
これまでの多くの研究は、追跡期間が2年以下と短いものであったり、対照群や対照期間が含まれていないものでした。
この調査では、専門家が猫の数を数えることで個体数を把握しましたが、市民から市に寄せられた野良猫の出生や死亡に関する報告も分析しました。
その結果、市の半分の区域で猫の不妊・去勢手術を行っても、猫の個体数は減らないことがわかりました。これは、未実施地域の猫が実施地域に入り込んでしまうためと考えられます。
全ての野良猫にTNRを実施した期間では、猫の個体数は年間7%減少しました。しかし、子猫の数が増え、寿命が伸びました。これは、去勢された猫たちとの競争が少なかったためです。
「未去勢の猫は、去勢した猫よりも縄張り意識が強いのです。未去勢の猫が去勢した猫がいる地域へ移動すると、彼らは縄張りを奪いとります」
理想的な答えはない

この結果を分析した研究者たちは、野良猫の個体数を制御するための完璧な解決策は”まだ存在しない”と言っています。
「野良猫を制御する理想的な方法は、場所によって異なります。自然の多い地域では殺処分が最良の解決策です。しかし、都市部ではTNRと餌場の制限を組み合わせれば効果的です」とクレメント氏は言います。
具体的には、特定の場所には猫の餌場を作り、他の公共の場所では餌を禁止し、ゴミ箱を閉めておくことを提案しています。
「特定の餌場があれば監視が容易になり、去勢していない猫が地域に入ってきたことを把握できます。これがTNRの効率を上げるのに役立ちます」
しかし、このような猫が他の野生動物に与える影響についてはまだ問題が残ります。
「野良猫が野生動物に与える危険性については、その通りです。米国では、野良猫が毎年何十億もの鳥や爬虫類を殺しており、一部の種の生息数に悪影響を及ぼす可能性があることが示されています」
研究者たちは、TNRは病気の猫を安楽死させるなどの他の個体数制御の方法と一緒に用いるべきだと提案しています。
「このことについては多くの文献があります。したがって、地域の状況によってTNRは他の管理手段と並行して実施すべきだと考えています」
reference: What’s the Best Way to Manage Free-Roaming Cats? (treehugger.com)

猫にとっては可哀そうな話じゃが、我々が見えないところで犠牲になっている野生動物もいるんじゃな
この記事は、2022年5月4日に投稿した内容を修正・再投稿したものです。
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