ホッキョクグマは石や氷を落としてセイウチを仕留める

クマ

このイラストは、冒険家チャールズ・フランシス・ホールが1865年に出版した本に掲載されたもので、ホッキョクグマが岩を落としてセイウチを仕留める様子を描いています。

イヌイットたちの伝承の中でこのような行動が伝えられていましたが、研究者たちの中では、これは単なる物語に過ぎないと考えられてきました。しかし、新しい研究はこれが事実であることを示唆しており、最近、この話を補強する有力な証拠が出てきたのです。

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イヌイットに伝わる伝説

セイウチ

セイウチは北極海やその周辺の海に生息する大型の海洋哺乳類です。大人のセイウチは体重が1トン近くある上、巨大な牙と頑丈な頭蓋骨を持っており、極北の最強のハンターであるホッキョクグマと言えど容易に倒せる相手ではありません。

カナダ北部やグリーンランドなどの氷雪地帯に住む先住民族のイヌイットは、200年以上にわたり、ホッキョクグマがセイウチを仕留めるため、岩などの道具を使ったという話を伝承してきました。しかし、研究者たちはこのような話を否定し、あくまで神話や寓話の類であると相手にしてこなかったのです。

ただし、1990年代後半にイヌーク族の猟師から報告されたものを含め、こうした報告は根強く残っており、大阪の天王寺動物園にいるオスのホッキョクグマのゴーゴが、道具を使ってつり下げられた肉を落として食べる様子も観察されています。そのため、世界有数のホッキョクグマ研究家であるイアン・スターリング氏が率いる研究チームは、この行動の真偽について調査をすることにしたのです。

「経験豊富なイヌイットの猟師が目撃したと言うのであれば、それは傾聴に値し、正しい可能性が非常に高いと私は考えています」と、スターリング氏は言います。

眠っているセイウチの頭上で氷塊を持ち上げるホッキョクグマの彫刻

彼らはイヌイットに伝わるホッキョクグマの道具使用に関する伝承や、近年における目撃情報などを集めて検討を行いました。その結果、「野生のホッキョクグマの道具の使用は稀ではあるが、サイズが大きく通常では狩ることが困難なセイウチに対してはそのような行動が起こり得る」という結論に至りました。この内容は今年6月の北極に関する研究学会「Arctic」で報告されています。

ホッキョクグマの知性

カナダ、エドモントンにあるアルバータ大学のホッキョクグマ科学研究所の所長であるアンドリュー・デロチャー氏は、今回の研究には参加していませんが、「(ホッキョクグマが)氷の塊で頭を打ちたくなるような相手はセイウチくらいでしょう」と語っています。彼は、そのような行動をするのは少数のホッキョクグマだけだろうと考えています。例えば、ある母熊が氷や石の使い方を発見したとしたら、それは彼女と彼女の子孫だけが習得するだけで、必ずしも北極圏全域のホッキョクグマが身につけるスキルではないと言うのです。

動物が問題解決のために道具を使用することは、高いレベルの知性の指標とされてきました。例えば、賢いことで知られるチンパンジーは、小型の哺乳類を狩るために槍のようなものを作ることがあります。イルカは海底を捜索する際、口の先が海底の岩などで傷つかないよう海綿を口にくわえてから砂をかき混ぜ、獲物をおびき出します。また、ゾウは丸太や大きな石を電気柵に落とし、電源を遮断することが知られています。

しかし、現状ではホッキョクグマの知性に関する研究はそれほど進んでいません。スターリング氏は、「我々は(ホッキョクグマの知性に関する)実験的、客観的な事実は全く知りません。しかし、ホッキョクグマが賢いことを示唆する観察情報はたくさんあります」と述べています。

ホッキョクグマを含むクマの仲間は、脳の大きさなどからも一般的に高い知性を持っていると考えられており、それは洗練された狩猟戦略によって一部証明されています。飼育されているアメリカグマの研究からは、霊長類に匹敵するほどの知性を有しているという報告もあります。

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環境の変化

カナダ・ヌナブト準州に住むイヌーク族の猟師、ガブリエル・ニルンガユック氏は、ホッキョクグマが道具を使ってセイウチを狩るという話を聞いたことがあると言います。「私はだいたい7歳頃からホッキョクグマを見てきました。その中でも最も賢いハンターはたいていメスのクマです」

ホッキョクグマは水面で眠っているふりをして若いアザラシをだまし、近づいてきたところを襲うことがあると彼は言います。また、雪に覆われた氷の上でアザラシの呼吸穴を嗅ぎ分けることもあるそうです。

北極圏周辺には19の個体群に分かれた約2万6千頭の野生のホッキョクグマが生息しています。しかし、気候変動によって北極の流氷は急速に減少しており、研究者たちは今世紀末には多くのホッキョクグマの個体群が絶滅すると予測しています。

環境の変化によってアザラシを狩ることが難しくなったホッキョクグマは、狩りの対象を拡げ、セイウチを襲うようになるかもしれません。しかし、「大人のホッキョクグマでも倒せるセイウチの数には限界があります」と、ワシントン大学の北極圏生態学者で論文の共著者であるクリスティン・レイドレ氏は言います。セイウチを狩るには多大なエネルギーが必要なのです。

確たる証拠

論文の発表後、スターリング氏のもとに確たる証拠が届きました。アラスカ州アンカレッジに拠点を置く米国地質調査所の科学者アンソニー・パガノ氏からあるビデオを受け取ったのです。

彼は以前、別のプロジェクトで野生のホッキョクグマにGoProカメラを取り付けたことがあり、その映像には、メスのホッキョクグマが大きな氷の塊を滑らせ、水中のアザラシに向かって投げ入れる様子が映っています。

該当のシーンは13:34頃から

相手はセイウチではありませんでしたが、この証拠により、ホッキョクグマが氷を利用して獲物を仕留めていることはほぼ間違いがないと言えるでしょう。


reference: Polar bears sometimes bludgeon walruses to death with stones or ice | Science News

体の大きさと脳の大きさ、それに知性の高さはある程度の相関関係があるようじゃから、体の大きなホッキョクグマがこのような行動をとったとしても不思議はないかもしれんのぉ

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