9月上旬、コンゴ民主共和国のチンパンジー保護施設で、チンパンジーの赤ちゃん3頭が誘拐されました。犯人は高額な身代金を要求しています。
身代金を目的とした動物の誘拐は極めて稀ですが、野生動物の密売が横行している国においては、このような犯罪が一般化することが懸念されています。
チンパンジーの誘拐

2022年9月9日午前3時頃、誘拐犯はコンゴの都市ルブンバシにあるチンパンジー保護施設J.A.C.K.に侵入し、そこで飼育されていた5頭の赤ちゃんチンパンジーのうち3頭を連れ去りました。誘拐されたのは、フセイン、モンガ、セザールと名付けられた3頭です。彼らは密猟者によって捕まえられた後、違法取引されているところを救助され、最近この施設に収容されたところでした。
誘拐が発覚して1時間後、J.A.C.K.の創設者の一人であるロクサーヌ・シャントロー氏のもとに誘拐犯からWhatsAppのメッセージとともに、3頭の赤ちゃんが映された動画が送られてきました。
ロクサーヌ氏の夫のフランク氏は取材に応じ、「悪夢のような出来事です。私たちはこれまで18年間、さまざまな困難に直面してきました。しかし、類人猿の誘拐なんて、こんなことは初めてです。さらに彼らは、私の子供と妻を誘拐すると脅したのです」と述べています。
その後、誘拐犯は数日にわたってロクサーヌ氏にメッセージを送り続け、6桁の身代金(明記はありませんが恐らく米ドルと思われ、数千万円に相当)を払わなければチンパンジー一頭の首を切り、他のチンパンジーを密売業者に売ると脅してきたとのことです。
現在のところ、このメッセージを最後に誘拐犯からの連絡は途絶えているようです。
捜査状況
コンゴのFBIに相当する国家情報局は、調査が進行中であることを理由に記者によるインタビューを拒否しています。しかし、シャントロー氏は、当局はこの事件を非常に深刻に受け止めており、今回の営利誘拐を国の安全保障上の脅威と見なしているようだと言います。
誘拐当日に保護施設を警備していた武装警備員は、その夜は特別何かを見たり聞いたりしたことはなかったと言っており、現場を調査した捜査員も強行侵入したような痕跡は見つけられなかったと言います。
そのため、シャントロー氏は保護施設スタッフのうち少なくとも一人が誘拐に関与していると確信していると述べています。また、フランク氏は身代金を払うことは、将来の誘拐につながる可能性があると考えています。
「我々が身代金を支払うことは不可能です。お金が無いだけでなく、もし私たちが彼らの方法に従えば、彼らは2ヶ月後にまた同じことをするかもしれません。そして、彼らが赤ちゃんを返してくれるという保証もありません。アフリカ大陸にはここのような保護施設や保護区が23個あります。身代金を払えばそれが前例となり、他の団体にも同じような行為が行われるかもしれません。そのため、我々は極めて用心深く対応しなければならないのです」
J.A.C.K.は以前にも犯罪の標的にされたことがあります。設立直後の2006年、放火犯が赤ちゃんチンパンジーの寝床に放火し、当時飼育していた5頭の赤ちゃんのうち2頭が死亡しました。2013年にも同施設の教育センターが放火されましたが、このときはチンパンジーが犠牲になることはありませんでした。
誘拐されたセザール

Photo: Primate Rehabilitation Center
数か月前、誘拐されたチンパンジーの一頭であるセザールは、保護施設から5,000km離れた地で密売業者により、ペットとして取引されているところを保護されました。彼の母親は、密猟者によって彼の目の前で殺され、ブッシュミート(狩猟された野生動物を食肉としたもの)として販売されていたのです。
妹のジャスティーヌも一緒に保護されましたが、彼らは深刻な栄養失調に陥っており、現地でケアを受けることになりました。しかし、残念ながら妹のジャスティーヌのほうは重い病気にかかり、命を落としてしまいました。
しかし、セザールは奇跡的な回復をみせ、最近J.A.C.K.の保護施設に移されたところだったのです。
密猟者と密売組織

コンゴで野生動物の密売と戦う非営利団体コンサーブ・コンゴ(Conserv Congo)の創設者であるアダムス・カシンガ氏は、「アフリカだけでなく世界においても、このような話を聞いたのは初めてです。政治的、社会的な意図で野生動物を利用するという話は聞いたことがありますが、金銭を目的として動物を誘拐するという話は初めて聞きました」と述べています。
また同氏は、コンゴ国内では野生動物の密売が横行しており、国際的な保護団体もほとんど活動できていないと言います。そのため、この違法な産業と戦うための必要な原資が得られておらず、十分な対抗措置が取れていないと現状の問題点を指摘します。
現在、密輸業者はより大胆になりつつあり、その背景にはエキゾチックアニマル(犬や猫などの一般的なペット以外の動物)のペット需要があります。チンパンジーの赤ちゃんは闇市場で約12,500ドル(1ドル144円換算で約180万円)で取引されており、時にはそれ以上の値段が付けられることもあるそうです。
さらに、多くの場合、密猟者は赤ちゃんを容易に捕らえるため、一緒にいる親などの多くの成獣を予め射殺しています。そして、セザールの母親と同じように、殺された成獣はブッシュミートとして販売されるのです。1頭の赤ちゃんが捕獲される際、最大で10頭の成獣が殺されるケースもあるそうです。
reference: Three Baby Chimpanzees Kidnapped and Held for Ransom | Smart News| Smithsonian Magazine、3 Chimpanzees Kidnapped for Ransom From Congo Sanctuary – The New York Times (nytimes.com)

なんとも悲しい事件じゃな
無事戻ってくると良いのじゃが
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