オーストラリアのタスマニア島に住むタスマニアデビルは、動物の死肉(腐肉)を主食としています。腐肉食(ふにくしょく)の動物はスカルベンジャーと呼ばれ、ハゲタカやハイエナなどが有名です。人によっては嫌悪感を覚えるでしょうが、生態系のサイクルを正常に保つためにはとても重要な存在なのです。
最近の研究によると、多くのスカルベンジャーが何でも食べるのに対し、タスマニアデビルだけは個体によって獲物をえり好みしていることがわかりました。なぜタスマニアデビルは獲物を選ぶのでしょうか?
腐肉食に適応したタスマニアデビル

タスマニアデビル(学名:Sarcophilus harrisii)は、腐肉を主食とすることに生理的・行動的な適応を遂げた数少ない哺乳類種の一つです。体の大きさに対する噛む力の比率は哺乳類の中で最も強く、腐肉を骨ごとかみ砕いて食べてしまいます。
最近、オーストラリアの合同研究チームが、タスマニアデビルが偏食家であることを突き止め、調査結果をまとめた論文を雑誌『Ecology & Evolution』に投稿しました。
ニューサウスウェールズ大学のトレーシー・ロジャーズ氏は、「一般的に、スカルベンジャーは見つけたものは何でも食べます。しかし、私たちの研究の結果、ほとんどのタスマニアデビルが実は偏食であり、獲物を選択して食べていることがわかったのです。彼らはスカルベンジャーの法則を破っています」と述べています。
偏食のスカルベンジャー

ロジャース氏らの研究グループは、タスマニア島の7つの異なる場所で捕獲した71匹のタスマニアデビルの食習慣を分析しました。彼らのヒゲには安定同位体と呼ばれる、過去に食べた食べ物の化学的痕跡が残っているのです。
驚いたことに、調査したタスマニアデビルの1/10だけが腐肉ならなんでも食べるというスカルベンジャーの一般的な食生活をしていたのに対し、大半の個体は、ワラビー、ポッサム、ナナクサインコなど、偏った獲物を中心に食事をしていたのです。そして、その好物もそれぞれの個体によって様々でした。
研究に参加したアンナ・ルイス氏は、「タスマニアデビルたちが、同じものを食べたがらないのには驚きました。ほとんどのタスマニアデビルは、『これが私の好物だ』と決めていたのです」と言います。
「これらの発見は、スカルベンジャーに対する私たちの認識を変えさせました。そして、タスマニアデビルがなぜルールを破っているのかという疑問を私たちに抱かせます。これは間違いなくタスマニアデビル特有の習性のようです。私たちが知っている限りでは、このようなことをする他のスカルベンジャーは存在しません」
偏食の理由

なぜタスマニアデビルは偏食なのか?研究チームの現在の仮説は、彼らがタスマニアで単独行動していることと関係がある、というものです。
ロジャース氏は、「基本的に、彼らが獲物をえり好みするのは、それをできる状況にあるということです。アフリカのスカルベンジャー(ハイエナなど)は、他の大型肉食動物たちと食料を奪い合うことになります。しかし、タスマニアには他の大型肉食動物が周りにおらず、腐肉の奪い合いになることもありません。彼らの主な競争相手は同じ種の仲間たちなのです」と説明します。
研究者たちは、調査したタスマニアデビルの中でも体の大きい個体ほど、獲物をえり好みして食べる傾向があることを発見しました。このことは、体の大きさによって獲物を選ぶ選択権を得られているか、あるいは、ある特定の獲物に特化することで体を大きくしやすくなるかのどちらかを意味している可能性があります。
また、そもそも彼らは意識的に獲物を選ぶのか?他の個体が興味を示さないような獲物を選ぶのか?あるいは単に最も豊富にある獲物を選んでいるのかもしれません。結果として、主食とする獲物の住み分けを行うことによって、同じタスマニアデビル同士での争いを避けている可能性もあります。
ロジャース氏は研究の今後の方針について次のように述べています。
「研究の次のステップは、タスマニアデビルがなぜヤブワラビーやポッサムのような特定の獲物を好むのか。また、このような特殊性に人間が関与しているかどうかを調べることです」
reference: Tasmanian Devils are Unique among Scavenging Mammals, Study Shows | Sci-News.com、Tasmanian devil – Wikipedia

獲物を選んでいるから大きくなれるのか、大きいから獲物を選べるのか、なかなか面白い話じゃったな
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