2021年、マダガスカルに生息する極めて小さなカメレオンの発見が報告されました。
ブルケシア・ナナ(学名:Brookesia nana)と名付けられたこのカメレオンは、オスの成体の体長(尾を含む)がわずか21.6mm(メスは29mm)しかありません。それは人間の指先ほどの大きさであり、世界最小の爬虫類である可能性があります。
世界最小の爬虫類


これまで世界最小の爬虫類とされていたのはドミニカ共和国に生息する極小のトカゲ(学名:Sphaerodactylus ariasae)で、最も小さい個体が鼻の先から尾の付け根までが14mmだったの対し、ブルケシア・ナナの最小個体は13.4mmでした。
わずかな差しかない上、ブルケシア・ナナは2匹しか確認されていないことから、『世界最小の爬虫類』のタイトルの行方はあいまいになっています。しかし、これまでに確認された爬虫類の成体の中で、最小の個体であることは間違いないようです。
生息域もとても小さい

Photo: Frank Glaw
ブルケシア・ナナはマダガスカル北部の熱帯雨林で発見されました。他のカメレオンのように色を変えることはなく、木の上というよりもその下の林床に生息しています。
ブルケシア・ナナ発見の詳細をまとめた論文は『scientific reports』に投稿され、論文の著者の一人であるマーク・D・シャーツ氏によれば、これまで世界最小のカメレオンであったミクロヒメカメレオン(学名:Brookesia micra)を含むヒメカメレオン属Evoluticauda亜属への分類が提案されています。
Evoluticauda亜属はヒメカメレオン属の中でも特に小さな種を集めたグループで、ブルケシア・ナナを含めた13種は、それぞれが極めて狭いエリアにしか生息していない固有種です。

マダガスカルという島で小さなカメレオンが多数見つかっているのは、いわゆる島嶼化(とうしょうか)という現象である可能性があります。島嶼化は、島などの孤立した環境で餌などの資源が著しく制限されることでより激しい生存競争が行われ、個体が巨大化、もしくは矮小化するという現象のことです。
外部からの個体の流入があれば個体の大きさはある程度平均化されていきますが、閉ざされた環境では極端な方向へと先鋭化していくようです。
体に見合わない大きな生殖器
ブルケシア・ナナのメスがオスに比べて30%以上体が大きいのは、卵を産むためだと考えられています。さらに、オスの生殖器(陰茎)は体長の20%近くもあります。この大きな生殖器により、自分よりも体の大きなメスと効率的に交尾を行うことができるのかもしれません。
オスの生殖器はヘビやトカゲなどにみられる左右二本に分かれた半陰茎と呼ばれる形状をしています。Evoluticauda亜属のカメレオンは皆この半陰茎を持っていますが、種によって形状が異なるため、研究者が種の同定(生物種を特定すること)をする際の判断ポイントの一つになっているそうです。
絶滅の危機

ブルケシア・ナナの生態はまだほとんど調査されていませんが、彼らが生息するマダガスカルのソラタ地方では大規模な森林伐採が行われており、すでに絶滅の危機にあることが確実視されています。
幸いなことに、最近ソラタ地域で新たな保護区が制定されましたが安心はできません。マダガスカルの多くの住人は経済的に貧困状態にあり、農作物の栽培や畜産のために森林を切り開くしか手段が残されていないのです。
住民の貧困解消への新たな解決策が発見されない限り、この問題に終わりを見出すことはできないかもしれません。
論文の著者たちは、極小のカメレオンたちがなぜこれほど小さいのか、なぜ体に見合わない大きな生殖器を持つのか、どうすれば彼らを保護することができるのか、などについて継続して調査を続けたいとしています。
reference: Chameleon Discovered in Madagascar May Be World’s Smallest Reptile | Smart News| Smithsonian Magazine、A newly discovered chameleon less than an inch long could be the world’s smallest reptile | CNN、Sphaerodactylus ariasae – Wikipedia、島嶼化 – Wikipedia

こんなに小さいカメレオンがいるとは!
閉ざされた島で独自に進化を遂げた動物を見るのは面白いのぉ
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