皆さんはヒヨケザルという動物をご存知でしょうか?
ヒヨケザルは、ムササビのような飛膜を使って木から木へと滑空し、時にはコウモリのように木にぶら下がり、でも顔はキツネザルに似ていて、母親は子供を袋に入れて育てます。
彼らは一体何者なのでしょうか?今回はこの謎過ぎる動物の正体を、8つの事実を通してご紹介したいと思います。
1. ヒヨケザルは何者なのか?
いきなりですが、最初にヒヨケザルが何者なのかをお教えします。
ヒヨケザルはサルではなく、ムササビのようなリスの仲間でもなく、コウモリでもありませんし、有袋類でもありません。彼らはヒヨケザルなのです。
なんだそれは?と思われるでしょうが、彼らは他の哺乳類のどのグループにも属さず、”ヒヨケザル目ヒヨケザル科”を形成しています。
最も近いとされるのが霊長類(サルのグループ)ですが、生物分類学の世界でもこの動物の位置づけについては様々な説があり、紆余曲折あったようですが現在は哺乳類の中の独立したグループ(ヒヨケザル目)とする形で落ち着いています。
2. ヒヨケザルの種類


現存するヒヨケザルは二種類しかいません。
- フィリピンヒヨケザル(学名:Cynocephalus volans)
- マレーヒヨケザル(学名:Cynocephalus variegatus)
その名のとおり、フィリピンヒヨケザルはフィリピンの島々に、マレーヒヨケザルはマレー半島を含む東南アジアに生息しています。

3. 空を飛ぶ哺乳類

ヒヨケザルの体長は30~40cmほど、体重は1~2kgと大きさの割に軽量です。
また、首から前足、そして後ろ足まで続く、広げると体長の倍ほどもある大きな飛膜を持っています。飛膜はコウモリやムササビにもみられる皮膚のひだで、これを使って軽い体を木から木へ100m以上も滑空するさせることができます。
彼らがなぜ滑空するのかははっきりとはわかっていません。
移動のためのエネルギーを節約しているという説がありますが、ある研究はヒヨケザルの滑空はエネルギー効率の良い移動方法ではないとしています。
ただし、非常に素早く移動することができます。
ヒヨケザルはとても臆病な性格の草食動物であり、滑空によって捕食者から逃げることが主な目的なのかもしれません。

ヒヨケザルの捕食者としてよく知られているのがフィリピンワシで、別名サルクイワシ(猿喰鷲)とも呼ばれています。特にフィリピンのミンダナオ島に暮らすフィリピンワシは、ヒヨケザルを主食としているそうです。
他に、フクロウなどの猛禽類やニシキヘビなどもヒヨケザルの捕食者になります。
4. クシのような歯

ヒヨケザルは夜行性で、一生のほどんどを木の上で過ごします。普段は主に樹上で得られる植物(葉、花、果実など)を食べており、水分は濡れた葉を舐める程度で十分です。また、フィリピンヒヨケザルは昆虫を食べることもあるようです。
彼らの下顎にある歯にはまるでクシのような細かな切れ目が入っており、この歯を使って樹液や果汁を漉(こ)しとって食べます。このような歯は他の哺乳類では見られません。
また、クシ状の歯は毛づくろいの時にも活用され、まるで本物のクシのように体毛から寄生虫などをきれいに取り除くことができます。
5. 木登りは苦手
人間を含む霊長類には「母指対向性」と呼ばれる特徴があり、親指が他の指と反対方向に曲がります。つまり、指を内側に曲げることで物を掴むことができるわけですが、これは樹上生活に適応するため、木登りがしやすいように獲得した特徴と言われています。
しかし、同じ樹上生活をするヒヨケザルにはこのような特徴は見られません。実際、木登りは得意ではなく、鋭い爪を木に引っかけながら登っていきます。その姿は、サルというよりもナマケモノに近いかもしれません。

また、地上での移動も苦手で、地面から小さなジャンプをして移動します。
6. コウモリのように木に逆さまにぶら下がり、超音波も使う

ヒヨケザルは木登りの際に使う強い爪で、コウモリのように木に逆さまにぶら下がることができます。同じ空を飛ぶ哺乳類同士の面白い類似点と言えますが、最近もう一つコウモリとの類似点が発見されました。
それは超音波を使うことです。
コウモリは自ら超音波を発し、その反響音を聞き分けることで周囲の障害物を探知することができます。これはエコーロケーション(反響定位)と呼ばれる手法で、これにより夜間の飛行が可能になっています。
まさにこのコウモリの超音波を研究していた科学者が、偶然マレーヒヨケザルが発する超音波を発見しました。同じ東南アジアの森林に生息する夜行性の哺乳類のメガネザルやスローロリスも超音波を発することが確認されています。
ただし、ヒヨケザルが何のために超音波を発しているのかはまだわかっていません。
7. 赤ちゃんは母親の飛膜の中で育つ

ヒヨケザルの繁殖に関する情報はあまりわかっていません。どうやら繁殖期というものはあまり決まっておらず、一年を通じて交尾しているようです。
ヒヨケザルは通常一度に一頭しか赤ちゃんを生みませんが、まれに双子が生まれることがあります。妊娠期間は60日ほどで、赤ちゃんはわずか35gほどのかなり未熟な状態で生まれてきます。
そのため、生まれてから6カ月ほどは完全に母親に依存し、普段は母親が飛膜で作る袋の中に入って過ごします。生まれてから2~3年ほどで大人になり、繁殖が可能になります。
飼育下では15年ほど生きるようですが、野生での寿命は今のところ不明です。
8. 今のところ絶滅の危機には瀕していませんが…
自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、ヒヨケザルは「低危険種」(差し迫った絶滅に対する脅威はない)とされていますが、その保護状況や自然生息地についてより多くの研究が必要であるとしています。
マレーシアやインドネシアのジャワ島には野生動物のための保護区が設定されており、そこに生息するヒヨケザルもいますが、その一方で生息地が脅かされている地域もあります。
例えば、スマトラ島では過去20年間で激しい森林伐採が行われ、原生林の40%が失われました。木に依存して生活するヒヨケザルにとっては大変な痛手でしょう。
また、地域によっては害獣として扱われたり、肉や毛皮を得るための狩猟が行われることもあるそうです。
reference: 17 Colugo Facts [Flying Lemur Mysteries Revealed] | UniGuide、14 Cute Colugo (Flying Lemur) Facts – Fact Animal、Flying lemurs—or colugos—can’t technically fly and aren’t technically lemurs | Magazine Articles | WWF (worldwildlife.org)、Interesting facts about colugos | Just Fun Facts、皮翼目 – Wikipedia、Colugo – Wikipedia

ヒヨケザルは本当に変わった動物じゃな!
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