マカロニペンギン属のペンギンは毎年2つの卵を産みますが、抱卵されて孵化するのは後に産んだ卵だけです。一つ目の卵は極端に小さく、母親はこの卵を巣から蹴り出してしまうこともあります。
この一見無駄とも思える奇妙な繁殖行動には、いったいどんな理由があるのでしょうか?
世界で最も知られていないペンギン

マカロニペンギン属は、マカロニペンギンを含むペンギンのグループで、赤いクチバシと黄色い冠羽(かんう)が特徴です。現存する7種のペンギンは、南極やその周辺の島に生息し、多くはニュージーランドで繁殖を行います。
今回、彼らの変わった繁殖方法の理由を調べた研究成果が、学術誌『PLoS ONE』に掲載されました。研究を行ったのは、オタゴ大学のロイド・デイビス氏をはじめとするニュージーランドの研究機関の合同チームです。
研究対象となったのは、マカロニペンギン属の一種でアンティポデス諸島で繁殖しているシュレーターペンギン(学名:Eudyptes sclateri)です。この調査は1998年に行われましたが、これまでその研究データは公開されていませんでした。
シュレーターペンギンは、世界中のペンギンの中で最も知られていないペンギンの一種です。その理由のひとつは、彼らの繁殖場所であるアンティポデス諸島がニュージーランド南島から南東に700km以上離れた場所にある孤島であり、東京ドームの半分にも満たないこの小さな無人島は世界遺産に登録されているため一般人は立ち入ることさえできません。
しかし、シュレーターペンギンやマカロニペンギン属の多くは国際自然保護連合のレッドリストで「絶滅危惧種」に指定されており、彼らの繁殖生態や個体数の状況を明らかにすることは保護の観点からも重要であると考えられています。
繁殖地を観察調査

調査はコロニーにいる270羽のシュレーターペンギンを捕獲するところから始まりました。離れた場所からでも確認ができるよう彼らの背中に黄色のエナメル塗料で番号を付け、249時間にわたってその行動を監視し続けました。
コロニー内には113の巣(メスのペンギンが卵を産み付ける台座のようなもの)があり、巣の占有率、交尾、喧嘩、抱卵行動などを1ヶ月にわたってすべて観察したのです。そして、巣に卵が産み付けられた日付やその運命も記録されました。
シュレーターペンギンは、他の多くのペンギンと同じように2つの卵を産みます。しかし、最初に産まれた卵は、約5日後に産まれる2個目の卵よりも最大で70%も小さいのです。この特性はマカロニペンギン属に共通のものです。
研究者たちは、最初の卵が2つ目の卵が産まれる前か直後に巣から失われてしまうことを発見しました。中には、親が意図的に卵を割ったり、押し出したりすることがあることも確認されました。
さらに、繁殖中のペンギンの約40%は最初の卵を抱卵することすらしないのです。2個目の卵を産んでから初めて本格的な抱卵が始まります。
では、1個目の卵は何のためにあるのでしょうか?
一つの実験

そこで研究者たちは、一つの実験を行うことにしました。14個の巣の周りに小石の輪を作り、1個目の卵が巣から転がり出ないようにしたのです。
その結果、細工をした巣では1個目の卵の86%が巣に留まったのに対し、何もしない巣では4%しか残りませんでした。しかし、これによって1個目の卵が孵化できるようになったわけではありません。
巣に残った1個目の卵は、巣の中で割れたり、卵を狙う捕食者に取られたり、孵化しなかったりして、結局すべての卵が失われてしまったのです。また、1個目の卵が巣に残っていても親はそれを拒絶し、抱卵することはありませんでした。
なぜ二つ目の卵だけを育てるのか?

Photo: Lloyd Davis/University of Otago
シュレーターペンギンは一年の中で餌を求めて長い距離を移動して暮らしています。そのため、次の移動までの残された時間の中で2羽のヒナが巣立つところまで養い、育てることが難しいのかもしれません。
研究者たちは、シュレーターペンギンが2個の卵を産むという祖先からの繁殖習慣を保持しているものの、2羽のヒナに十分な食料を供給できないため、最初の卵を犠牲にしてヒナを減らすよう適応してきたのではないかと考えています。
そう考えると、最初に産む卵はできるだけ小さくし、メスが無駄にするエネルギーコストを最小限に抑えるのが理に適っているのでしょう。
マカロニペンギン属が、すべてのペンギンの中で(恐らく全ての鳥類の中で)最も極端にサイズの違う卵を産むのは、生き残れないヒナへの投資を減らすための戦略であることは明らかです。
絶滅に瀕するシュレーターペンギン
この研究を行った研究者たちは、シュレーターペンギンがより注目されて積極的な保護活動が行われない限り、この種の生存そのものが脅かされる可能性があると警告しています。
気候変動がアンティポデス諸島での繁殖に悪影響を与えていることを示す証拠に、ここ数十年で多くの嵐や土砂崩れが発生したことでコロニーの一部が消滅し、1998年の調査から2014年の間にペンギンの個体数が約1/3に減少していることが明らかになりました。
さらに、島周辺の海洋生産性の変化によってこの地域のイワトビペンギン(マカロニペンギン属の近縁3種の総称)の個体数はすでに激減しており、シュレーターペンギンも同様の打撃を受けている可能性が高いと考えられます。
論文にはシュレーターペンギンの保護について、「この研究は、これほど魅力的で絶滅の危機に瀕しているペンギン種が、現代においてもほとんど知られていないことを逆説的に明らかにしています。四半世紀近く前に行われた私たちの研究が、いまだに最も詳細なものであることに愕然とします。この驚くべき種について、より多くの研究とより良い保護活動が緊急に必要です」と書かれています。
reference: Enigmatic penguin lays two eggs but hatches only one • Earth.com、Erect-crested penguins always reject their first egg and lay another | New Scientist、These Penguins Mysteriously Abandon Their First Egg. We Finally Know Why : ScienceAlert

環境の厳しさが二羽のヒナを育てることを許さない
まさに自然淘汰の顕著な例と言えるかもしれんな
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