地球のわずか数パーセントの面積に過ぎない熱帯雨林には、全生物種の半数以上が生息しているとされています。そして、熱帯雨林を含む熱帯地域から南北へ離れるにつれ、生物の多様性は減少していくのです。
こうした現象は『多様性勾配』や『緯度勾配』と呼ばれますが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
多様性勾配

『多様性勾配』とは、熱帯から高緯度(北極、南極に近い地域)になるにつれ、生物種数が減少していくパターンのことです。(このパターンが指すのは、あくまで生物種の数であり、生物の個体数を指すものではありません)
この現象はかなり以前から知られており、生物学者たちは長年をかけてこの問題に取り組んできました。
1807年、ドイツの著名な博物学者であるアレクサンダー・フォン・フンボルトは、「熱帯に近づくほど、構造の多様性、形の優美さ、色彩が増し、また有機的生命の永遠の若さと活力が増す」と記しています。
プリンストン大学のアンドリュー・ドブソン氏によると、熱帯地域の生物多様性を説明する仮説は主に3つあり、実際にはこのうち複数が関連している可能性があるそうです。
第一の仮説「エネルギー」

第一の仮説は、熱帯地域の持つエネルギーによるものです。
熱帯地域は赤道に近いため一年を通じて日照時間が長く、降雨や土壌の栄養分とあいまって植物の生育に適した環境と言えます。
「北極圏や南極圏では、1年の半分は(太陽が出ず)暗闇の中にいることになります。その間、植物の生命を維持するために必要な太陽のエネルギーが入ってきません」とドブソン氏は述べています。
生態系における食物連鎖のピラミッドは植物が支えており、植物が豊富であるということは、より多くの動物が生存し、繁殖できることを意味します。

進化の観点からみると、植物が多様で豊富であれば動物の多様性も高まることになります。
なぜなら、植物が多様であれば、ある植物だけを食べるような草食動物の集団が増え、また、その動物の集団を専門に狙う捕食者も増えることになります。こうした食料の専門性は、集団を隔離させ、種分化を推し進める原動力になります。
種分化とは、ある生物種から新しい生物種が誕生するプロセスのことです。隔離された集団は独自の進化を遂げ、やがては互いに生殖できないほど遺伝子が異なると、別な種に分かれた(種分化した)と言うことができます。
まとめると、太陽のエネルギーが豊富な熱帯では植物が多様化し、食料が専門化した動物はやがて種分化を起こすことで生物種が増えていくというのです。
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第二の仮説「時間」

第二の仮説は、生物種が進化するために必要な時間に関連するものです。
現在の生物の多様性のほとんどは、過去2億年の間に発展してきたものですが、その間、何度も氷河期を迎え、その影響を受けています。
氷河期を迎えると地球全体の気温が下がることで極地(北極と南極)の氷が拡大します。氷に閉ざされた地域の生物種のほとんどは生存することが難しくなり、やがて絶滅を迎えます。
一度多くの動物種が絶滅してしまえば、再び気温が上昇して氷が解けても、その地域の生物多様性は再び最初からやり直さなければならないのです。
それに比べ、気温の高い熱帯地域ではこのような絶滅を迎えることはなく、古くから続く生態系を維持し続けることができます。生物の進化には長い時間が必要であり、この時間の長さは多くの種分化を起こすための時間を提供しているのです。
また、高い生物多様性を見せる熱帯の生物たちが、氷河期によって一時的に生物の絶対数が減少した寒冷な地域に移り住んでいくことも考えられますが、実際のところは難しいようです。一度温暖な環境に適応した種が寒冷な地域に適応していくのにも大きな時間がかかるのです。
第三の仮説「多様性の限界」

第三の仮説は、多様性の限界に関係するものです。
この仮説は、なぜ熱帯地域に多くの生物種が生息しているかを説明するというよりも、生物種の均衡がいかに保たれるかを説明します。
仮説の前提として、それぞれの環境には種の多様性の限界が存在すると仮定しています。これまでの説明のとおり、熱帯地域には多くの資源があり、多様な動物が生息しています。しかし、植物の生産量が増えれば、無限に生物種が増えていくというわけではありません。
熱帯地域は種分化の確率が高いものの、同じように種の絶滅の確率も高いのです。
種分化の割合が高まると、それぞれの種の生息数が少なくなります。先述のとおり、一度種分化してしまえば異なる種間では繁殖することができなくなるため、生存競争に敗れた種は絶滅の危険性が高くなるのです。
こうした種分化と絶滅のバランスによって、その環境の多様性の限界が決定します。それでも熱帯地域には生物種の生存に有利な条件が揃っているため、他の環境に比べて多様性の限界が高いものと考えられます。
多様性勾配の例外
多様性勾配は大まかな傾向を示すものであって絶対的なものではなく、このパターンに反する例もみられます。
例えば、ペンギンは冷たい南極海域の豊富な餌に依存して繁栄し、多くの種に分かれています。また、針葉樹は広葉樹との競争に敗れたことで寒冷地に追いやられていますが、厳しい環境が新たな種を生み出すというパターンもあります。
高緯度の地域では、それぞれの環境に絶妙に適応しなければ生き残れないという側面があります。実際、多くの研究が高緯度地方における亜種の多様化を報告しています。亜種は種分化の前の段階で、繁殖は可能ながら異なる性質が見られるという区分です。
北海道には、エゾシカ(ニホンジカの亜種)、エゾリス(キタリスの亜種)、シマエナガ(エナガの亜種)などの亜種が生息しています。シマエナガは、雪の中に溶け込めるように白い姿に進化しています。

他に、多様性勾配を覆すグループの一つが寄生虫です。寄生虫の多様性は赤道から遠ざかるにつれて増加します。
先述のとおり、熱帯地域では動物種の数が多く、それぞれの種の個体数が少なくなります。寄生虫は限られた動物種を宿主とすることが多いため、種の多様性が低く、一つの種の個体数が多い地域のほうが寄生虫は繁栄しやすくなるのです。
reference: Why is there so much biodiversity in the tropics? | Live Science

種の多様性を支えているのは熱帯雨林じゃが、現在ではその面積が急速に減少しており、それに伴って多くの生物種も失われていっておるんじゃ
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